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創作から興味ある事柄まで気まぐれに綴ります
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今回の題材となる映画『八つ墓村』は、これまで紹介してきた金田一耕助シリーズと違い、市川崑氏ではなく野村芳太郎氏が監督した作品である。

過去の事件がその後だいぶ経ってから新たな事件に影響するという物語は後を絶たないが、『八つ墓村』は遥か昔の落ち武者狩りの祟りと、その象徴とも言うべき数十年前に起こった大量殺人事件の二段構えになっているのが特長だ。

後者は太平洋戦争中にある山村で実際に起こった事件をモデルにしており、それを知ってから原作を読んだり映画を観ると、何やら戦慄の走る思いがする。

当初は横溝正史原作の映画化作品として賛否両論の出た本作だが、確かに時代設定が戦後すぐでは無く現代(公開当時)だったり、登場人物の役割やストーリーが大胆に改変されていたりして、金田一物としてはかなり異色の内容となっている。

その際たる物が渥美清演ずる背広を着た金田一耕助で、私立探偵というより物静かなベテラン刑事といった風情なのだが、これはこれで他とは違った魅力だと私は思う。

洋服姿の金田一は他の映像作品にもあるし、クライマックスで彼が事件の真相を語って聞かせるシーンなどは、その落ち着いた口調が別のショッキングな映像と交互に映し出されて不気味な効果を上げている。

こうした静と動の極端な対比は、この映画の随所に見受けられる。

役者の演技や背景描写は出来るだけ自然に抑揚を付けない配慮がなされている一方、ここぞというシーンは強烈な誇張を加えるという大胆な演出が試みられており、そのインパクトが成功したからこそ未だに支持する人が多いのだろう。


 実は原作の八つ墓村は、主人公・田治見辰弥の目線で描かれる怪奇ロマンの色合いが強く、金田一耕助の存在感がいつもより薄い。

この形式で書かれた原作自体は『三つ首塔』など結構あるのだが、ワトスン医師の一人称あってこそホームズ譚と感じるのに似て、やはり読み手に多少違和感を抱かせてしまう様だ。


 入り組んだ人間関係の多い作品の場合、登場人物達をより踏み込んだ分析で読者に解説する探偵の役割は重要である。

まして金田一耕助は狂言回し担当だと言われる程なので、彼の関わる度合いが浅い原作だと、観客の期待する展開の映画に仕上げるのはかなり難しいのではないかと予想する。


 今回紹介した野村芳太郎監督版『八つ墓村』は、金田一耕助物の映画としては一際変わり種だが、監督・スタッフ・キャストの力量によって忘れ難い見事な作品になっているのは間違いない。


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