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創作から興味ある事柄まで気まぐれに綴ります
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映画『飢餓海峡』は1965(昭和40)に公開された東映製作の映画である。

水上勉の同名小説を原作としているが、映画独自のエッセンスが多分に含まれている様だ(私は未読のため詳細は分からず)

今で言う社会派ミステリーに分類される作品だが、戦後の貧困に喘ぐ人々が混沌の渦に巻き込まれる姿をただ描いただけではない。

冨田勲が作り出す子守唄と読経が入り混じった様な不気味なテーマ曲は冥界からの呼びかけの様であり、わざと粗くされたモノクロ画質とオカルティックな演出によって事件物らしからぬ雰囲気を醸し出している。

主役を演じた三國連太郎は底の見えぬ難しい役柄を見事にやってのけ、真実に迫りたい捜査陣と同様に観客をも混乱に招く。

また何といっても左幸子の熱演は鬼気迫るもので、貧しさから若くして娼妓に身を置く者の諦観やしたたかさを見せる一方、エキセントリックな一面で相手を狼狽させる簡単には解し難い女性を表現し切った。

彼女の演じた杉戸八重は誠に不憫な人物なのだが、三國の演じた犬飼多吉からすると、理解者・庇護者であると同時に破滅への導き手でもあるのが何とも皮肉である。

主演の二人だけでなく、伴淳三郎が演じる静かに執念を燃やす老刑事、高倉健が演じる若き辣腕刑事、藤田進が演じる冷静かつ温かみのある警察署長などもまことに良い。

個人的な映画の感想としては、純朴でありながら狂気を内包した(或いは環境がそうさせた)男女が運命に翻弄される様を、天から俯瞰で観る様な視点で撮られたような印象を受けた。

ただ特異なのは、二人が歩む細い道のすぐ足元に冥獄の闇が渦巻いている恐ろしさである。

私は湿っぽい話は苦手なのだが、映画『飢餓海峡』は乾いた視点とオカルティックな無常感が漂う演出のおかげで興味深く観賞することが出来たし、これは観ておいて損のない作品だと思う。



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